2025-11-11 コメント投稿する ▼
キャリア官僚給与30万円超も労働環境改善こそ急務、根本的課題への対策不十分
人材確保という目的は理解できますが、給与引き上げと同時に労働環境の改善にも本気で取り組んでいるのでしょうか。 より根本的な問題として、硬直的な組織風土の改革が求められています。 民間企業では当然となっている成果主義の導入や若手の抜擢、失敗を恐れない挑戦的な文化の醸成などが、公務員組織でも必要です。
政府は2025年度から国家公務員給与を大幅に増額することを決定しました。月給を平均3.62%(1万5014円)引き上げ、キャリア官僚の初任給は史上初めて30万1200円となります。人材確保という目的は理解できますが、給与引き上げと同時に労働環境の改善にも本気で取り組んでいるのでしょうか。
人事院は人材不足対策として大企業並みの待遇が必要と説明していますが、若手官僚の離職理由を詳しく調べると、給与の低さよりも深刻な問題が浮かび上がります。長時間労働、非効率な業務プロセス、硬直的な組織運営など、根本的な働き方の課題への対策が置き去りになっているのが現状です。
給与アップは評価するが
今回の大幅な給与改善については、一定の評価をすべきでしょう。民間企業との人材獲得競争が激化する中、優秀な人材を公務員として確保することは国家の将来にとって重要です。特に初任給の大幅引き上げは、就職活動中の学生にとって公務員を魅力的な選択肢にする効果が期待できます。
人事院が比較対象企業を従業員1000人以上の大企業に変更したことについても、キャリア官僚が実際に競合する企業層との比較という観点では合理性があります。東京大学などトップ大学の学生の多くが大企業を志望する中、公務員が選択肢として検討されるためには相応の処遇が必要でしょう。
しかし、給与面での改善だけで本当に人材流出を防げるのでしょうか。より重要なのは、なぜ優秀な若手が公務員を辞めていくのかという根本原因への対策です。
「給料上がるのはいいけど、残業80時間とかは変わらないんでしょ?」
「お金より時間がほしい。家族との時間を大切にしたい」
「非効率な会議や無駄な資料作りばかりで、やりがいを感じない」
「上司の顔色ばかり見てて、国民のためになってる実感がない」
「デジタル化が遅れすぎ。まだ手書きの書類とかありえない」
労働環境改善への取り組みは不十分
実際に若手官僚の離職が増加している背景を見ると、給与よりも働き方の問題が深刻であることが分かります。2023年度に退職した在職10年未満のキャリア官僚は203人で、この10年で3倍近く増加していますが、退職理由として最も多いのは長時間労働と仕事のやりがいのなさです。
特に問題なのは、国会対応による長時間労働です。若手職員は国会の連絡係として配置されることが多く、月80時間を超える残業が常態化しています。2021年に残業代の全額支給が実現しましたが、長時間労働そのものの解消には至っていません。
また、多くの業務が従来のやり方に固執しており、デジタル化や業務効率化が大幅に遅れています。手書きの書類作成、非効率な会議の連続、重複する報告書作成など、時代遅れの業務プロセスが若手職員のモチベーション低下を招いています。
本当に必要な改革とは
人材確保を本気で考えるなら、給与改善と併せて以下のような労働環境の抜本的改革が不可欠です。
まず、国会対応の効率化です。質問通告の早期化、答弁書作成プロセスの簡素化、デジタルツールの活用などにより、国会対応による長時間労働を大幅に削減できるはずです。政治家側の協力も必要ですが、行政側からも積極的な改善提案を行うべきでしょう。
次に、業務のデジタル化推進です。ペーパーレス化、電子決裁システムの導入、AI活用による定型業務の自動化など、民間企業では当たり前の効率化手法を公務員組織でも本格導入する必要があります。
さらに、働き方の柔軟性向上も重要です。テレワークの拡充、フレックスタイム制の活用、副業解禁の検討など、多様な働き方を認めることで優秀な人材の定着を図るべきです。
組織風土の変革が鍵
より根本的な問題として、硬直的な組織風土の改革が求められています。年功序列中心の人事制度、上意下達の意思決定プロセス、失敗を恐れる保守的な文化などが、若手職員の創意工夫を阻害しています。
民間企業では当然となっている成果主義の導入や若手の抜擢、失敗を恐れない挑戦的な文化の醸成などが、公務員組織でも必要です。今回の給与制度改革でも職責に応じた処遇の導入が検討されていますが、より大胆な改革が求められます。
また、国民との距離感を縮める取り組みも重要です。多くの若手官僚が「国民のために働いている実感がない」と感じている現状を改善するため、現場との接点を増やし、政策の効果を実感できる機会を提供する必要があります。
財源確保と国民理解
もちろん、給与改善に要する予算は国民の税金です。国と地方を合わせて1兆円を超える人件費増加となる可能性もあり、国民の理解を得るためには相応の成果が求められます。
重要なのは、給与アップと労働環境改善をセットで実現し、その結果として行政サービスの質的向上や効率化を実現することです。単に処遇を改善するだけでなく、国民により良いサービスを提供できる組織に変革できるかが問われています。
真の人材確保戦略を
今回の給与改善は人材確保に向けた第一歩として評価できますが、それだけでは不十分です。給与、労働環境、組織風土の三位一体改革こそが、真に優秀な人材を惹きつけ、定着させる戦略と言えるでしょう。
特に、Z世代と呼ばれる若い世代は、給与よりも働きがい、ワークライフバランス、社会貢献を重視する傾向があります。時代に合った働き方改革を実現できなければ、給与を上げても人材流出は止まらないでしょう。
政府には給与改善と併せて、労働環境の抜本的改善に本気で取り組む姿勢を示してほしいと思います。それこそが国民の税金を有効活用し、より良い行政サービスを提供する道筋となるはずです。