2025-04-11 コメント投稿する ▼
奈良公園の「神の使い」を守れ 県が条例運用を改正、暴力行為を明確に禁止
きっかけは、昨年7月に投稿された1本の動画だった。白いTシャツ姿の男が、歩きながらシカを蹴ったり叩いたりする様子が撮影されており、多くの人が怒りや悲しみの声を上げた。「神の使い」ともされる奈良のシカへの心ない行為に、国内外から批判が集中した。
奈良のシカは国の天然記念物であり、殺傷行為については文化財保護法により処罰の対象となる。しかし、法律の網がかからない軽度の暴力については取り締まりが難しいという課題があった。今回の改正は、こうしたグレーゾーンを明確に規制する狙いがある。
県が定めた新たな禁止事項では、「みだりに、その身体に外傷が生ずるおそれのある暴行を加えること、またはそのおそれのある行為をさせること」と、かなり具体的な文言で定めている。これにより、今後は「蹴る」「叩く」といった行為も条例違反として対応できるようになる。
県の担当者は「動画が拡散されたことで、シカへの暴行という行為が社会問題として再認識された。文化財保護法に至らないレベルの行為でも、禁止対象としてしっかり位置づける必要があると判断した」と話す。
奈良公園では、外国人観光客の増加に伴って、シカとのトラブルも増えている。シカの角を引っ張ったり、無理やり記念撮影しようとするなど、無自覚な行動が原因でトラブルに発展するケースが後を絶たない。そうした状況に対応するため、県警では「DJポリス」が日本語・英語・中国語の3カ国語で注意喚起を行っている。
また、公園内には注意喚起の看板が随所に設置されており、観光客に対して「シカせんべい以外は与えない」「不用意に触らない」といった基本的なマナーの徹底が呼びかけられている。
今回の運用改正については、シカの保護活動を行っている市民団体や有識者からも歓迎の声が上がっている。元迷惑系ユーチューバーのへずまりゅう氏も、自身のSNSで「奈良のシカへの暴力が禁止行為として明文化されました」と発信し、条例改正を評価した。
今後は、条例に基づく取締りだけでなく、継続的な啓発活動も不可欠だ。シカと人間が安全に共生できる環境づくりには、観光地を訪れる一人ひとりの意識が問われている。